【月刊NIGOD通信】2021年10月|ゴジラ迎撃作戦【公式】ニジゲンノモリ
「ゴジラ迎撃作戦アフターリポート」などの極秘情報満載!
国立ゴジラ淡路島研究センター
通称”NIGOD”にまつわる
極秘情報満載のレポートです。
ファン必見のレポートは毎月1日に公開!
「あるNIGOD職員の日記より2010/09/25(完結編)
モニターには、きわめて奇妙な画像が映し出されていた。
身長はゆうに100メートルを超えるであろう、人類が目にする生物の中でも群を抜いて巨大な謎の生物が、淡路島に向かって海を歩いているのだ。
その超巨大生物の後方には、おそらくこの個体の尾と思わしき部位が海中から見え隠れしており、いったいこの生物の全長は何百メートルになるのか、といった興奮と恐怖が、私の胸でグラグラと沸騰していた。
その生物、「ゴジラ」は自衛隊機の誘導により、この淡路島を目指している。
そこにあらかじめ設置された「爆破ポイント」まで連れてこられ、地雷による爆発で半ば生き埋めのような形で足止めし、そこに我々NIGODが開発した「G細胞活動抑制剤」を打ち込むというのが「ゴジラ迎撃作戦」の全容である。
きわめてシンプルではあるが、要は活動抑制剤さえ打ち込めればそれでよいのだ。
未曽有の超巨大生物を相手にするには、これぐらいシンプルな作戦の方が臨機応変な対応が可能というものだ。
そうこうしているうちに、「ゴジラ」は淡路島に上陸した。
「ただいま、ゴジラが淡路島に上陸。ゴジラが淡路島に上陸しました」研究室のスピーカーは状況を逐一報告してくれるが、研究員の殆どは自分たちのデスクのモニターで自衛隊から配信される記録映像を見ながら各種計算や
確認作業に余念がない。
住人の避難が完了し無人となった淡路島市街を「ゴジラ」が歩いている。
「ゴジラ」に無用の刺激を与えないように自衛隊の面々が各種武装を携行し「ゴジラ」を遠巻きに追跡している様子が画像に映る。
「もし、今ここでゴジラが急に暴れだしたら、この人達はどうなってしまうのだろう?」思わず嫌な想像をしてしまいそうになるが、「ゴジラ」が徐々に「爆破ポイント」に近づくと、不安と緊張でそんなことを考える余裕はすっかり吹き飛んでしまった。
「ゴジラ、爆破ポイントに到着。ゴジラ、爆破ポイントに到着」アナウンスが終わらないうちに、幾重にも重なった大爆音とともに大地震のようなすさまじい揺れが起こり、同時にモニター内の「ゴジラ」は濛々たる噴煙に包まれた。
地雷が一斉にさく裂し、「ゴジラ」の足元から広範囲が土砂となり「ゴジラ」を地中に引きずり込んだのだ。
建物のあちこちの部屋から「おぉ……!」と歓声が聞こえる。しかしこれでまだ作戦は終わったわけではない。
この後「ゴジラ」の埋まり具合を確認し、その口に「G細胞活動抑制弾頭」を打ち込まなければならないのだ。
しかし次の瞬間、我々は信じられないものを目の当たりにする。
いまだ収まらぬ土砂の噴煙の中から謎の紫色の光が見える。あんな兵器はプランにはないはずだ。
と、サーモグラフで「ゴジラ」の体温を確認していた研究員が叫び声をあげる「ゴジラの体内に高熱源反応を確認!」
高熱?まさか「ゴジラ」が火を吐くとでもいうのだろうか?
次の瞬間、すさまじい地響きとともに、ゴジラの咆哮が轟き、まるでカメラのフラッシュを同時に何万個も炊いたかのような凄まじい閃光と、そして更に正体不明の轟音が鳴り響いた。
そして噴煙を吹き飛ばすように横たわる「ゴジラ」の口腔から紫色の閃光が放たれ、いくつかのモニター画像が全てノイズの嵐になりシャットダウンした。
にわかに建物中が沸き上がった。やはり「ゴジラ」は我々の想像をはるかに超えた超生物だったのだ。
一部の撮影用ドローンを除き、ほぼすべての情報が途絶えた。
今「ゴジラ」の様子をモニターできるのはわずかに生き残った画像撮影用のドローンのみだ。
それらも突如発した高熱やその他電磁波等の影響で画像が乱れたり正確な飛行が不可能であったりと散々な様相だ。
その時、スピーカーから幾度目かのアナウンスが館内に響き渡った。
「自衛隊機、G細胞抑制弾頭を発射。繰り返します、自衛隊機、G細胞活動抑制剤を発射」。
僥倖だ、あの「ゴジラ」からの謎の攻撃からも自衛隊の戦闘機は無事生き残り、予定通り「G細胞活動抑制弾頭」を発射してくれたのだ。
幾度目かの激しい揺れと轟音、そして先ほどとは明らかに違う「ゴジラ」の悲痛な咆哮。
アナウンスを聞くまでもない、作戦通り「ゴジラ」の口腔に「G細胞活動抑制弾頭」がさく裂したのだ。
我々NIGODの研究の粋ともいえる「G細胞活動抑制剤」は「ゴジラ」の体内に侵入してすぐにその効果を発揮する。
とはいえ、こちらの想定をはるかに超えるあの巨体に作用を及ぼすまでは短くて数分、長くても10分程度の時間は必要だろう。
もはや我々は持てる手段をすべて尽くした、あとはもう運を天に任せるしかない。
研究室でも、皆がまだ生きている画像を映しているモニターに傾注している。建物全体が、固唾を飲んで事の経緯を見守っているのがわかる。
ただ壁の時計だけが、静かに時を刻んでいた。1分、2分と時間が過ぎ、時計の針はもう3分を超えようとしており、他の部署からのざわめきが聞こえる。
「主任……」研究員の一人が私に声をかける。
彼の言わんとすることはすぐに分かったが、「気持ちはわかる。しかしあと1分待とう」そう言って、皆を、いや、自分を落ち着けるのが精いっぱいだった。
やがて時計の針は3分を経過し、4分に差し掛かろうとしている。
その時、私の内線用の携帯が鳴った。
「もしもし」と私が言い終わるより早く、電話の向こうの上司が「君はどう見る?」と問うてきた。
私は、深呼吸を一つすると、研究室の全員に聞こえる声ではっきりとこう答えた「ゴジラは活動抑制剤の効果により、活動を停止したものと思われます」と。
研究室の空気が変わった。皆、声にこそ出さないが、是認が心の中で喝采を叫んでいた。
「そうか、私も同意見だ。では、本部上層部及び政府にはそう伝える」そう言って、上司は通話を終了した。
形態をポケットにしまう私に、研究所中の視線が集まっているのが解る。
「皆、自分の席に戻り、アナウンスを待つように」
それだけ言うと、私も自分の席に戻り、先ほど買ったペットボトルの水を一口飲んだ。
やがて、スピーカーから先ほどの上司に声が響く「全職員に通達。「ゴジラ」は我々の開発した細胞抑制剤によってその活動を停止。現時点をもって、ゴジラ迎撃作戦を終了する。繰り返す……」そこから先は館内中に響き渡る大歓声によって聞こえなかった。
「ゴジラ」はその活動を停止した。
しかし、その全容はまだ何もわかっていない。あの巨体、通常兵器では傷一つ付けられない強靭な皮膚、そして口腔から放たれる謎の熱線……挙げればきりがないほどあの生物は謎に満ち満ちている。
今までは「ゴジラ」の痕跡を血眼になって探していたが、今度は驚くほど大量のサンプルがある。
これからはあの巨大生物を解明するための膨大な観察と実験が始まるのだ。
今後何年、いや何十年続くか分からないが、我々研究者の戦いは、これからが本番なのだ。